投稿日：2024.8.2

高齢者の矯正治療

近年はマウスピース型矯正の普及により、以前よりも歯列矯正のハードルが下がっている
ので治療する患者さまが増加傾向にあります。
しかし昔はマウスピース型矯正もなければ、ワイヤー矯正でも現在みたいに目立ちにくい
装置がないので、ブラケットもワイヤーも金属でした。
そのため目立ちすぎる金属の装置への抵抗や、高額な費用が理由で治療できなかった方は
多いのではないでしょうか。

年齢を重ねるごとに身体を労わるようになってきて、歯の大切さ、噛み合わせの重要性を
実感している方。
今からでも矯正治療は遅くありません。
40代50代、それ以降の方でも口腔内の環境が良ければ矯正治療を始めることができます。
健康の入り口はお口からです。
楽しい人生にしたいなら、まずは歯の健康を守りましょう。

 

 

矯正治療は何歳まで？

 

大人になってから矯正治療を受ける割合は20代が多いですが、シニア世代と言われる50代
以上の方でも2割ほどいます。
歯並びが気になっている方でも年齢や金額的に諦めてしまう方が多いようですが、歯列矯
正に年齢制限はないので、条件がクリアしていれば基本的に何歳からでも開始できます。
以前までは高齢者の歯列矯正はリスクがあり難しいとされていましたが、技術の進化によ
り対象年齢の幅が広くなってきています。

現在でも多少のリスクやデメリットはありますが、不正な歯並びを放置していると歯並び
の乱れはもっと大きくなり、歯が失う可能性も大きくあります。
歯が残っている本数が多いほど、年齢を重ねても元気で若々しい方が多いです。
歯の寿命を延ばして健康的に生きるためには、歯並びを整えることが重要になります。
しかし何歳でも歯列矯正を行うことは可能ですが、どんな方でも治療を受けられるわけで

はありません。
歯列矯正ができる条件は何でしょうか。

 

高齢者が治療できる条件は？

 

高齢になるほど口腔内や身体の健康状態が悪くなることが多いので、矯正治療を受けにく
くはなります。
しかし何歳でも以下の問題がなければ治療を開始することは可能です。

1)重度の歯周病に罹患している
歯周病の罹患率は年齢とともに増加傾向にあります。
歯周病は歯を支える骨(歯槽骨)を溶かし、最終的には歯が抜け落ちてしまう怖い病気です
。
歯列矯正で歯を動かす仕組みは、歯周組織が重要です。
歯根の周りには歯根膜と呼ばれる薄い膜があります。
歯に矯正力が加わることで進行方向の歯根膜が圧迫され、破骨細胞と言う骨を溶かす細胞
が出現します。
歯槽骨が溶けて(吸収)、反対側の歯槽骨が新しく作られる(再生)ことを繰り返し行うと歯が
少しずつ動いてきます。
しかし重度な歯周病に罹患していると、もともと歯槽骨が溶けて歯が不安定な状態です。
その状態で吸収と再生を繰り返すと治療中に歯が抜けることや、矯正終了後も歯が安定せ
ずグラグラになってしまうリスクがあります。
歯周病治療を終えてからでも歯列矯正は行えますが、歯槽骨が溶けてしまうと元には戻ら
ないので、なるべく進行させないように早期からの予防を心掛けましょう。

2)抜歯ができない持病や薬を飲んでいる
高齢になると高血圧や特に女性は骨粗鬆症を患っている方、お薬を飲まれている方は非常
に多いです。
高血圧のお薬は血液がサラサラになる作用があるので、抜歯後出血が止まりにくく全身状
態が不安定になる可能性があります。
骨粗鬆症のお薬や注射は抜歯後に顎骨が壊死してしまうリスクがあるので、服薬を中止し
てから抜歯を行うことも考えられます。
服薬を中止してすぐに治療できるわけではなく、骨粗鬆症のお薬は中止してから3ヵ月経

たないと抜歯はできません。
そのため希望の治療開始時期や終了時期があれば、前もって歯科だけではなく、持病のか
かりつけ医との計画が必要になります。

 

3)残っている歯の数が少ない
高齢になると長く歯を使っているため、治療している歯は若い方と比較すると多いでしょ
う。
残っている歯の状態が悪かったり、ブリッジや入れ歯などで失った歯を補っている場合は
、歯列矯正が難しくなります。
歯列矯正の目的は歯並びを整えて審美性の向上もありますが、単に整えるだけでなく、理
想的な歯列弓を作り、噛み合わせも調整していきます。
残っている歯が少ないと綺麗な歯列弓を作れず、左右で本数が異なるとバランスが難しく
なるため、得られる結果は良くないでしょう。

 

4)インプラントが埋められている
差し歯の場合は根っこが残っているので歯列矯正で歯を動かすことは可能ですが、インプ
ランントの場合は骨に埋まっており、上記で説明したように歯根膜がないので動かすこと
ができません。
しかし動かないインプラントを利用して、部分的な矯正治療は可能になります。
奥歯にインプラントを埋入しているのであれば、前歯の部分矯正。
反対に前歯にインプラントを埋入しているのであれば、奥歯の部分矯正ができます。
さらに従来の歯列矯正では自由に動かすことは難しいですが、インプラントを固定源にし
て矯正したい歯だけ効率よく動かすことができます。

5)通院するのが困難である
矯正治療中は月に１度のペースで調整やクリーニングで通院する必要があるので、健康面
や体力面で通院が困難な方は治療を進めることが難しくなります。
また、歯列矯正中は矯正装置がついているので、今まで以上に丁寧な歯磨きが必要です。
虫歯や歯周病にならないように歯磨きの工夫や歯間ブラシやフロス、タフトブラシなどを
併用して口腔ケアが行える体力があるかどうかも重要です。

 

高齢者の矯正治療におけるメリット・デメリット

 

口腔内環境が整っており、歯や歯槽骨が丈夫で上記の条件に該当していなければ、基本的
に治療は受けることができます。
高齢者の矯正治療にはメリットがあれば、もちろんデメリットもあるので紹介していきま
す。

メリット

1)見た目の変化
歯並びを綺麗にすることで、若々しさや清潔感がある印象に変化するでしょう。
また、噛み合わせが整うことで口元のたるみやシワの悩みの解消に繋がります。

2)虫歯や歯周病・口臭のリスクが軽減する
歯並びが整うと歯ブラシが当てやすくなり、磨き残しが少なくなります。
毎日ご自身で口腔ケアができるようになると、虫歯や歯周病のリスクが減り、歯の残存数
が上がります。
さらに磨き残しが少なくなることで、口臭の予防にもなります。

3)認知症予防につながる
嚙み合わせが整い左右のバランスが良くなると、しっかり噛めるようになります。
よく噛む習慣がつくと脳の働きが活発にあり、記憶力や集中力など認知機能が向上するの
で、認知症予防に効果的です。

4)消化や栄養の吸収が良くなる
お食事を細かく噛めるようになると、胃腸への負担が少なくなり消化しやすくなります。
さらに栄養の吸収もしやすくなるので、身体の調子が良くなり、体力も向上します。

 

デメリット

1)理想の歯並びにならない可能性がある
持病や予防のために飲まれているお薬の種類によっては、抜歯にリスクがあるケースもあ
ります。
さらに抜歯後の傷の治りも遅く、細菌感染する可能性もあることから抜歯を行わずに歯列
矯正をすると、思い描くような歯並びにならないこともあります。
また、加齢に伴い歯槽骨が硬くなる事や、歯と歯槽骨が癒着してしまうケースもあります
。
その場合歯が動かないので、他の治療方法と組み合わせる可能性があります。

2)ブラックトライアングルができる
加齢に伴い歯茎の位置が下がり、歯と歯の間の三角ゾーンが黒く見えることがあります。
このことをブラックトライアングルと呼びますが、高齢になると歯槽骨や歯茎が下がる傾
向があるので、ブラックトライアングル大きくなりやすいです。
矯正治療をすると歯や歯槽骨に負担がかかるため、さらに下がり治療開始前よりブラック
トライアングルが大きくなることが予想できます。

 

3)治療開始までスムーズにいかない場合がある
飲まれているお薬の関係や、虫歯・歯周病があるとスムーズに治療を開始することはでき
ません。
長期の治療になるので、身体の状態や口腔内環境を優先して治療を進めることが、成功の
カギとなるでしょう。

4)丁寧な口腔ケア
矯正装置があると歯磨きが難しくなり、磨き残しが増えてしまいます。
さらに高齢になると唾液の分泌量が減少するので、細菌が増殖しやすく、虫歯や歯周病の
リスクが高くなります。
今まで通りでは口腔内環境が悪くなってしまうので、歯ブラシと併用して歯間ブラシやフ
ロスなどの補助用具を使用しましょう。

歯並び・噛み合わせを整えることは健康を手に入れ、生活の質の向上に繋がります。
だからこそ高齢の方でも歯列矯正は決して無駄な治療にならないので、条件に問題がない
方は積極的に治療をしてほしいです。
歯周病の方でも先に治療して歯周組織の状態が良くなれば、矯正治療を行える可能性もあ
るので、歯並びが気になる方はいつでもご相談ください。

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